BDU
BATTLE DRESS UNIFORM
WOODLAND CAMOUFLAGE PATTERN
COAT & TROUSERS
 
 BDU:Battle Dress Uniformは1981年9月にアメリカ軍に制式採用された野戦戦闘服の名称である。BDUはこれまで陸海空軍で個別に採用されていた戦闘服の統一化をする目的で開発され、同時に基地内で使用する作業用の被服などと戦闘服を統合する目的で開発された。基地の内外で使用されるギャリソンドレスユニフォームに対して戦闘向けに開発された事からBattle Dress Uniformと呼称された。
 BDUが採用されるまでのアメリカ軍の戦闘服は1952年以来使用されているオリーブグリーンのものが一般的で、朝鮮戦争、ベトナム戦争でもオリーブグリーンのユニフォームが全軍で使用された。ベトナム戦争中にはそれまでのユーティリティユニフォームに対する不満から熱帯地域向けのトロピカルユニフォームが開発される。この軽量で動きやすい野戦服はたちまち各軍で受け入れられ好評となった。一方で特殊部隊ではタイガーストライプパターンなどの迷彩服が多用された事から、アメリカ軍ではトロピカルユニフォームに迷彩効果を付与したモデルを1960年代後半に開発した。開発された迷彩パターンはERDLカモフラージュパターンと呼ばれ、特殊部隊や偵察部隊、海兵隊などで多用された。ベトナム戦争終了後も迷彩服の有用性を知った各部隊はERDL迷彩服を部分的に改良し使用を続けた。1970年代後半には各部隊の使用する野戦服の消耗などからアメリカ軍の戦闘服を統合して更新すべく、新型戦闘服の開発が始まった。アメリカ軍戦闘装備研究所(ナティック)が中心となり、これら戦闘服を研究し、誕生したのがウッドランドカモフラージュがプリントされたBDUである。
 BDUはコットンとナイロンを50%ずつブレンドした合成生地で制作された。これは耐火対摩耗性などを考慮した結果、最も優れた配合であるとの結果から採用された。またトロピカルユニフォーム同様にコート(ジャケット)の裾を外に出すデザインを採用した。またトラウザース(パンツ)にも大型のカーゴポケット装備するなど基本的にはトロピカルユニフォームのデザインを踏襲しつつ改良を加えている。トロピカルユニフォームから継承しなかったものとしてリップストップ素材があげられる。それまでコットン100%で製造されていたトロピカルユニフォーム系列とは異なり保温性と強度を増す為に生地そのものが厚手になり、またナイロンが50%ブレンドされている点からリップストップ生地は採用されなかった。

 BDUはコットンとナイロンの混合生地の上にウッドランドと呼ばれるカモフラージュパターンをプリントしているのが最大の特徴と言える。ウッドランドカモフラージュはBDU同様に1981年に制式採用された事からM1981 WOODLAND CAMOUFLAGE PATTERNなどと呼称される。その名の通り森林地帯を想定したもので、ベトナム戦争終了後、次なる危機的地域として注目された冷戦下の東西ドイツとその周辺のヨーロッパ諸国での使用を想定してデザインされた。BDUはそれまで使用されていたERDLパターンやRDFパターンなどのトロピカルユニフォームとは異なり熱帯地域での戦闘は考慮されておらず、Temperate Weatherと呼ばれる中間、温和気候帯での使用を想定して制作された。この為熱帯地域や砂漠地帯、極寒冷地での使用には向いていない。
 BDUには1980年代より急速に発達していく夜間戦装備、取り分け近赤外線イメージコンバーター(暗視装置)への対策が施されている。これらは主に近赤外線(NIR:Near InfraRed))への対応が施されたもので、印刷にinfrared-brightened dyesという染料が使われている。これにより周囲の環境が放射する赤外線と同じレベルに兵士が溶け込む事が可能になっている。この事からこれらBDUやそれに準じる性能の戦闘服へのアイロンがけ、糊付けなどのクリーニング措置は禁止されている。製造メーカーは多数存在するが、アメリカ軍装備供給部門のDPSCとSELMAアパレル社などが担当している。
 このBDUが軍事行動で本格的に投入されたのは1983年のグレナダ侵攻作戦であった。アメリカの在グレナダ邦人救出を目的とした軍事行動アージェント・フュリー作戦では多くの部隊がBDUを使用した。しかしカリブ海に浮かぶ熱帯の島であったグレナダではBDUの生地は気温的に適しておらず、熱の逃げにくい生地に対して兵士からは不満が続出した。この事から1984年以降熱帯地域向けのBDUであるHot WeatherモデルとTemperate Weatherに分けて生産、支給する事になり、それに伴う改良も行われていく。結果的にこの初期型BDUは1983年で製造を終了するが、生産数は多かった為に1980年代後半までは一般部隊で使用された。BDUは1981年の採用以降数度の改良を続けながら使用され続けた。アメリカ海兵隊では2001年6月に新型デジタル迷彩のMARPATが採用されると2004年10月1日までにMARPATに完全移行された。陸軍では2005年〜2007年の間にACUに移行が行われ、海軍、空軍もこれに続いた。改良を続けつつ、20年もの期間アメリカ軍全軍で使用されたベストセラーユニフォームであり、その後も一部の特殊部隊ではBDU及びウッドランドパターンは継続して使用された。開発から30年以上経過した今日でも使用が継続されている。

BDU初期型の個体別写真はこちら。

BDUパッチレイアウト写真はこちら。


COAT, COMBAT, WOODLAND
CAMOUFLAGE PATTERN
 
写真のコート(ジャケット)は1980年頃から部隊への支給が始まったウッドランドカモフラージュパターンのBDUで、TW-BDUと呼ばれる初期のタイプである。TWはTemperate Weatherの略で中間的、温和気候を意味し、主に温帯、亜寒帯気候地帯での使用を考慮している。この為熱帯気候や極寒冷地には向いていない。素材はコットンとナイロンをそれぞれ50%使用しており、近赤外線対策が施されている。ウッドランドBDUのコートは典型的なボタンフロントのロングスリーブシャツでウイングタイプの襟を装備している。袖のカフスはシングルタイプで三段階の調整が可能になっている。胸部と腰部にポケットが配置されそれぞれCARGO LEFT BREAST,CARGO LOWER LEFT FRONT, CARGO LOWER RIGHT FRONT, CARGO RIGHT BREASTとなっている。なおCARGO LEFT BREASTのポケットには内部にペンポケットが配置されている。摩耗が予想される肘部分はELBOW PATCHES(二重にパッチ)が施され、強度を確保している。
 
WOODLAND(ウッドランドカモフラージュパターン)
 M1981 WOODLAND CAMOUFLAGE PATTERNは1981年にBDUのカモフラージュパターンとして採用された。アメリカ軍では戦闘服だけでなく表面積の大きいバックパックやバックパックカバー、防弾ベスト、ヘルメットカバーにもウッドランドパターンを採用している。また個人装備にも多数採用されている。迷彩色としての一般知名度も高く、最もポピュラーなカモフラージュパターンと言える。基本的にはベトナム戦争で使用されたERDLパターン、熱帯地域用として1970年代後半から1980年代中期まで多用されたRDFパターンを拡大したデザインで、アメリカ軍の使用するMIL SPECのカモフラージュカラーコードのうち4色で構成されており、その内訳はBLACK357、BROWN356、DARK GREEN355、LIGHT GREEN354の4色である。
(BLACK, US ARMY, 357 AND BROWN, US ARMY, 356 AND GREEN, US ARMY, 354 AND GREEN, US ARMY, 355 MAIN BODY)

 ウッドランドカモフラージュパターンは多くの国で模倣された他、アメリカ軍の支援物資としてアフガニスタン国軍などで使用されている。類似パターンを使用する国家にはアルゼンチン、ボリビア、カンボジア、チリ、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、ペルー、オランダ、フィリピン、韓国、中国、タイ、トルコ、アフガニスタンなどがある。アメリカ国内でもナショナルガード(州兵)やコーストガード(沿岸警備隊)、SWAT、DEAなどで使用されている。 
   サイズラベルはストックナンバーと並記されたデザインで裏地の襟元に配置されている。ストックナンバーの8415はウッドランドBDUを指し最後の1645はサイズを示している。初期のラベルは白いものが殆どだが1982年にはグリーンのラベルも使用されている。
  取り扱いマニュアルと予算年度、素材が記載されたラベルはCARGO LOWER RIGHT FRONTのポケットがある裏地面に縫い付けられている。

COAT,COMBAT,WOODLAND
MAMOUFLAFE PATTERN
DLA100-81-C-2413  
  ウッドランドコート胴体部分。ボタンフロント方式で首もとの第一ボタンのみが通気性を考慮しオープンボタンになっている。これ以外のボタンはすべて迷彩生地の下に隠れるデザインで、ジャングルなどでボタンを欠損するのを防いでいる。ボタンには従来のユニフォーム同様にプラスチック製の4ホールのタイプが使用されている。 トロピカルユニフォームとは異なりポケットの取り付け角度が水平になっている。
  ボタンフロント部分は5個のボタンで構成される。一番上のボタンのみが通気性を考慮しすぐに開閉ができるオープンタイプのボタンで、第二、第三と第四第五ボタンはそれぞれ一区切りのフラップで覆われている。
  CARGO RIGHT BREAST
右上部ポケット。フラップは2カ所のボタンで固定可能になっている。ポケット本体中央よりの縦横にはマチが設けられ、収容能力を高めている。ポケット底部には水抜き用のドレーンホールが設けられている。フラップ裏面には部分製造ごとの管理番号がスタンプされている。
   
CARGO LEFT BREAST
左胸のポケットは右側のポケットと同一の規格だがフラップの中央部分が貫通するデザインで内部にはペンポケットが装備されている。
   
CARGO LOWER LEFT FRONT, CARGO LOWER RIGHT FRONT
コート前面下部には大型のカーゴポケットがそれぞれ配置されている。ボタンの個数、フラップの形状は胸部のポケットと同じだがサイズがより大きいものになっている。またポケットの左右と底面すべてにマチが設けられより大きな装備を入れることが可能になっている。底部左右にはドレーンホールが配置されている。
  RDFパターン(熱帯用迷彩服)との比較
 BDUの方が襟のカットが大きくなっている。またRDFパターンでは襟元の裏地にすべてのラベル情報が一枚で記載されているのに対して、BDUではサイズとストックナンバーのみが記載されている。
 
スリーブ(袖)のデザインは大きく変更されているが最大の特徴は肘部分に当て布(ELBOW PATCHES)が施された点である。
 
 カフスボタンはRDFパターンの二段階から三段階へ増加した。またカフスを固定するファスナーが被服から独立したプルタブ式に変更されている。
   
ポケット(CARGO LEFT BREAST,CARGO RIGHT BREAST)の比較。(写真左)
ポケット中央にスリットのあるデザインのRDFパターン(右)に対してBDU(左)では加工が施されていない。

ポケット(CARGO LOWER LEFT FRONT, CARGO LOWER RIGHT FRONT)の比較。(写真右)
胸部のポケット同様に中央にスリットのあるデザインのRDFパターン(右)に対してBDUでは加工が施されていない。

TROUSERS, COMBAT, WOODLAND
CAMOUFLAGE PATTERN
   
BDUのトラウザースはベトナム戦争中に支給されたトロピカルユニフォームと同様にルーズな作りと大腿部に設けられた大型のカーゴポケットが特徴となっている。コート同様にナイロンとコットンを50%ずつ使用したブレンド生地を使用しており、ウエストには7箇所のベルトループの他にバックル&ストラップのウエスト微調整機能が装備されている。このデザインはトロピカルユニフォームの改良型で採用されて以降継続して使用されている。ポケットは腰部前方左右にオープントップポケットが配置され、後部左右にはフラップを装備したポケット、大腿部に大型のカーゴポケットが配置されている。合計6箇所のポケットを持つ事から同様のスタイルのトラウザースはしばしばシックスポケットと呼ばれる。ポケットの各名称はSLASH LEFT HIP, SLASH LEFT SIDE, CARGO LEFT THIGH, SLASH RIGHT HIP, SLASH RIGHT SIDE, CARGO RIGHT THIGH。BDUコート同様に摩耗の予想される場所には二重の当て布が施されており、それぞれ膝部分(KNEE PATCHES)、臀部(SEAT PATCHES)となっている。裾部分は異物の侵入を防ぐためにドローコードが配置されている。ファスナー部分はジッパーではなくボタンフロントで4つのボタンで開閉する。
   
 ラベルはコート同様に2箇所に分散して設置されている。予算年度とマニュアル(写真左)が記載されているラベルは右後部ポケット裏に配置され、サイズ及びストックナンバーラベル(写真右)は裏地背面中央部分に配置されている。
 
SEAT PATCHES, BUCKLE AND STRAP WAIST etc...
後部ポケット、ベルトループ、シートパッチ。ベルトループには金属バックルを利用したウエストサイズの微調整ストラップ(BUCKLE AND STRAP WAIST)が装備されている。ポケットはフラップを装備しており2つのボタンでフラップを固定する。臀部には半円形状のシートパッチが施され地面に座った際、射撃姿勢をとった際などに臀部生地の摩耗を防ぐ。
 
CARGO RIGHT THIGH, CARGO LEFT THIGH
カーゴポケットCARGO RIGHT THIGH, CARGO LEFT THIGHは左右の大腿部に設けられた大型ポケットでポケット本体面に2つのマチとポケット後部側面にマチを設けている。
 
KNEE PATCHES
膝部分には当て布(KNEE PATCHES)が施され摩耗を防いでいる。膝部分は特に射撃時やクローリング(匍匐前進)などで酷使される。またKNEE PATCHES左右中央部分には膝の曲げ伸ばしを考慮しマチが設けられている。 
  DRAWCORD LEG BOTTOM
裾口にはナイロン製のドローコードが配置され、左右を絞って結ぶ事でブーツとトラウザースの裾口の隙間から泥や害虫など異物の侵入を防ぐ。


RDFパターン(熱帯用迷彩服)との比較
 
フロントファスナー部分。RDFパターン(下)で装備されていた前面のカバーがBDU(上)では装備されていない。
 
RDFパターン(左)とBDU(右)の比較。後部ポケットのボタンはRDFパターンが1つだったのに対してBDUでは2つに増加している。
 
ドローコードの比較。RDFパターン(左)はベトナム戦争中に使用されていたトロピカルユニフォームと同様のコットン製のロープスタイルをしているのに対して、BDU(右)ではナイロン製の平型のストラップを採用している。ナイロン製は腐食に強く、特にこの位置は水や泥が付着しやすい事から材質が変更になったと考えられる。
 
膝部分の比較。BDU(左)は膝部分に当てぬのがあるのに対して、RDFパターン(右)はマチのみが配置されている。